世界平和の根拠地。
親から子へ、世代を超えて記憶を引き継ぐ‼
夾竹桃の花と夏の暑い日に祈り続けます。
東京大学教授 羽藤英二 美の十選
2019/7/30付 情報元 日本経済新聞 朝刊
人は傷つき、痛みの中で苦悩する。しかし、忘れてしまう生き物だ。記憶を喪(うしな)う必然を前に、忘れたい記憶と忘れてはいけない記憶の器としての空間は、社会に何をもたらし得るだろうか?
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太平洋戦争の敗戦から4年後、広島平和記念公園と記念館の設計コンペが開催される。145件の応募案のなかから1等に選ばれたのは丹下健三たちの提案だった。
広島の原爆投下同日、瀬戸内海をはさんだ対岸の今治大空襲で母を亡くしていた丹下は「ここは世界平和の根拠地であるという確信」に支えられ都市計画としての空間設計案を展開する。川向こうにあった原爆ドームを都市軸の中で生け捕り、バラックが立ち並ぶ中島に通い詰め祈りの空間づくりに邁進(まいしん)した。公園南側には、丹下の友人であるイサムノグチが欄干を設計した平和大橋がつくられ、復興の熱狂に竣工式は沸いた。
忘却があるから人間は生きていける。にもかかわらず、なぜ私たちは親から子へ、世代を超えて記憶を引き継ごうとするのだろうか。国家が一度間違った方向に向かえば、どれほど悲惨なことを引き起こすのか。世界にとってもそれは、重大な出来事だった。
夾竹桃(キョウチクトウ)の白い花が咲く夏の暑い日に祈るために、絶え間なく人々はこの場所を訪れ続ける。
(1955年)
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